■判決文(平成11年8月31日・東京高等裁判所) |
■判決文(平成11年8月31日・東京高等裁判所)
平成九年(ネ)第三六四号従業員地位確認等請求控訴事件、平成十年(ネ)第四七四三号 同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所八王子支部平成四年(ワ)第一六二五号) 判決
口頭弁論終結日 平成十一年二月十六日 主文 一 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。 二 被控訴人(附帯控訴人)らの請求及び附帯控訴をいずれも棄却する。 三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。 事実及び理由 第一 当事者の求めた裁判 一 控訴の趣旨 1 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人(附帯控訴人)らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。 二 控訴の趣旨に対する答弁 本件控訴をいずれも棄却する。 三 附帯控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)白川節子に対し、金一八四五万九七九三円及び平成八年十月から本判決確定まで毎月二十六日限り一ヶ月金三十万一七三十円の割合による金員を、 被控訴人(附帯控訴人)清水真理子に対し、金一二八五万九八五十円及び平成八年十月から本判決確定まで毎月二十六日限り一ヶ月金二十万二百円の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。 四 附帯控訴に対する答弁 1 本件附帯控訴を棄却する。 2 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。 第二 事案の概要 当事者双方の主張は、次のよおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、 これを引用する。 一 控訴人(附帯被控訴人)の当審における主張 1 解雇事由について 被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)らは、在職中に、「しつけを口実にした支配」、「まさに奴隷労働」等を記載したビラを配布したり、真っ赤なリボンを 胸につけたり、名札着用を拒否するなどして、本件病院への攻撃を繰り返し、平成三年八月十四日に懲戒解雇(以下「本件解雇」という。)された後も、「全くの暗黒の職 場だ。労働監獄なのだ」と記載したビラを配布したり、清瀬市発行の広報誌に本件病院に関する記事が掲載されると同市に抗議する等、本件病院を攻撃し、業務を妨害す る行動をくりかえしている。被控訴人両名は復職を標榜していても、真実は本件病院攻撃のみを目的としていることは明らかである。 本件解雇後に判明した在職中の事実や解雇後の事実も、被控訴人らに対する本件解雇の有効性を判断するに際して斟酌されるべきである。 2 解雇権濫用について 雇用関係は、継続的契約関係であり、特に患者の診療を目的とする病院では、患者を中心に機能するのであるから、職員間の信頼関係、使用者と職員との信頼関係が強度 に要求される。 被控訴人らは、病院を敵視し、攻撃することに終始し、本件病院の信頼関係回復のための提言や努力を無視し続けたものである。 被控訴人らは、職務専念 義務に違反し、かつ職場秩序維持の観点からも不当な行為を繰り返したものであり、このことは都労委の決定及び原判決によっても明らかである。 それにもかかわらず、 被控訴人らは、在職中反省の態度を示した事は無く、都労委の和解の席においても、「反省することはない。」と断言しており、同人らに今後の反省を期待することは不可能 である。本件病院を現在経営する控訴人〔附帯控訴人。以下「控訴人」という。〕と被控訴人らとの間の信頼関係は完全に破壊されているのであって、控訴人は、このよう な者についてまで、今後も雇用しなければならない義務はないというべきである。 3 普通解雇としての有効性 被控訴人らは、本件病院の院長武谷ピニロピ(以下「院長武谷」という。)が解雇通告時に供託した金員のうち、夏期賞与、解雇予告手当及び八月分給与について、還付を うけている。 老齢の女性である同院長は、平穏な精神状態のもとで医療に邁進したいと考えていたため、敵対関係を作り出す被控訴人両名には病院を辞めてもらいたいと の一心であった。 解雇通告書の文言は文言として、同院長の真意は、被控訴人両名との雇用契約を終了させることに主眼があり、このことは両名は重々承知していたから、 被控訴人両名に対する本件解雇の意思表示は、少なくとも普通解雇の意思表示として有効である。 4 事情変更 従前は、誠実な労働意志を有する労働者を解雇するような事態は考えられなかったが、社会情勢の激変に伴い、現在では誠実な労働意思を有する労働者ですら解雇される事 態に陥っている。 まして誠実な労働意思を有さない労働者について雇傭を続ければ当該企業の倒産は必至であり、誠実な労働者をも巻き込むじたいとなる。このことは病 院においても変わらない。 被控訴人らが誠実な労働意欲を有さないことはあきらかであり、 このような被控訴人らを雇傭しないことは一般常識からも是認されることである。 5 被控訴人の附帯控訴について 院長武谷及び控訴人が解雇予告手当、仮処分決定に基づく仮払金及び第一審判決の仮執行宣言に基づく支払金等の合計は、被控訴人白川節子(以下「被控訴人白川」とい う。)につき二六六一万五〇〇三円、被控訴人清水真理子(以下「被控訴人清水」という。)につき一八五三万九七五〇円となる。 仮に、本件解雇が無効と判断される場合は、右仮払金の限度で相殺又は充当されるべきである。 債務名義が複数存在するときは、これらが悪用されるおそれがあり、このような事態の紛糾、複雑化の予防のためには、 第一審判決が採ったように、仮処分決定による仮払金も本案判決において斟酌されるべきである。したがって、附帯控訴は理由がない。 二 被控訴人らの当審における主張 1. 附帯控訴の理由 原判決は被控訴人らの全員請求について、被控訴人白川につき千七百七十五万八千二百九十三円、同清水につき千二百八十五万九千八百五十円の仮処分決定に基ずく賃金仮払金相当部分を棄却した。 しかし、右仮払金は、保全処分の執行の結果実現されたもので あり、その執行によって形成された仮の覆行状態は本案判決において斟酌されるべきものではない。 よって、附帯控訴の主旨記載のとおりの判決を求める。 2. 控訴人の当審における主張1について 控訴人は、解雇後に判明した解雇当時の事情も解雇理由の判断において斟酌されるべきであるとして、 解雇前の事情及び解雇後の事情を主張するが、本件解雇は懲戒解雇であり、 判例で示されているとおり、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情の無い限り、 当該解雇の理由とされたものではないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない。 3. 控訴人の当審における主張2について同主張は争う。 4. 控訴人の当審における主張3について 控訴人は、本件解雇の意思表示が懲戒解雇の意思表示として無効であるとしても、普通解雇として有効である旨主張するが、 裁判例によっても、解雇の意思表示のような単独行為については、 いわゆる無効行為の転換を認めると相手方の地位が著しく不安定なものとなるから許されないと解されており、 本件解雇も懲戒解雇である以上、これを普通解雇の意思表示に転換することは許されないものである。 5. 控訴人の当審における主張4について 控訴人は、被控訴人らが誠実な労働意欲を有していない旨主張するが、これは控訴人独自の事実認識に基ずくものであり、控訴人の当審における主張4は争う。 第三 当裁判所の判断 一. 当事者は本件病院が被控訴人らに対し行った懲戒解雇の事実等は、現判決理由欄第一項記載の通りであるから、これを引用する。 二. 本件解雇に至る経緯、本件解雇理由の存否、解雇手続の有効性等については、次の通り付加し、訂正するほか、 原判決理由欄第二項1ないし3記載のとおりであるから、これを引用する。 1. 原判決五十五頁十行目に「三十ないし三十四」とあるのを「三十ないし三十六」と、五十六頁五行目に「百五十二ないし百五十四、百五十六ないし百六十六」とあるのを「百五十 二ないし百六十六」と同九行目「二三七」を「二三五」とそれぞれ改める。 2. 同五十八頁五行目末尾に続けて、「本件病院の職員は約百四十名であり、その内武谷労組組合員は約二十名、全関東単一労働組合(以下「全関東」という。)の組合員は被控訴人ら二名であった。 3. 同六十三頁二行目冒頭から六十五頁四行目末尾までを次の通り改める。 「(4)補助看護婦村中裕子は、昭和六十三年九月二十一日から同年」十二月九日まで試用期間中であったが、 消毒薬に対し手荒れが酷くなる体質であり、右期間中も手が荒れて消毒が十分できない状態となり、 眼科の看護婦としては、仕事ができないことが判明した。 しかも、同人は右期間の実労働日数六十五日の内、二十日間も休んだ。 そこで本件病院は、同年十二月十三日に同人に解雇通知をしたが、 被控訴人らは、同月十四日、全関東と共に、これが不当解雇であるとし、本件病院に抗議を申し入れ、 本件病院と全関東との間で団体交渉が行われ、右解雇は一旦は留保された。 ところが、村中裕子の夫から、本件病院の支配人である原正(以下「支配人原」という。) に対し、同日深夜に「女房が迷惑をかけた。家がめちゃめちゃになっている。 もう彼女を辞めさせたいがどうしたらよいか。」旨の電話があり、 同支配人は、「辞表を書けばよい。」と答えたところ、村中裕子は、翌十五日に辞表を提出して、 本件病院を任意退職した。これに対し、被控訴人らは、本件病院が不当な働きがけをしたとして、 村中の解雇に対し激しい反対運動」を展開するようになった。 すなわち、全関東の組合員十数名が本件病院に押しかけ、院長武谷に面会を強要し、 これを制止しようとした支配人原を転倒させ、同人に「人殺し」とまで言わせた。 被控訴人白川は、院長武谷及び他の医師が患者を診察している診察室において、 患者を診察中の同院長に対し、村中裕子に仕事をさせるよう大声で詰めより、 また眼科診療室からロビーに出た総婦長に対し、多数の患者の面前で、総婦長の白衣を後からつかんで、 大声で、「村中さんに謝りなさい。」等と言って迫った。被控訴人白川のこのような行為の為、診療を待つ患者の呼び出し等ができず、診療業務が滞った。 被控訴人白川は、昭和六十三年十二月二十七日、村中裕子の右のような退職の経緯を支配人原から聞かされて知っていたにも関わらず、 「本件病院は、村中裕子の夫と一体となって解雇を強行し」、 「院長・支配人・総婦長・経理長一丸となって退職を強要し解雇した」等と記載した文書を作成し、これを配布した。 (5)被控訴人白川は、平成元年1月八日、本件病院の許可を得ないで、自己の氏名の後に所属を示すものとして本件病院名を記載したうえ、 「天皇ヒロヒトと支配階級はアジア人民ををはじめとする三千の万人もの人々を殺りくし」、 「・・・奴隷根性を強制する天皇制イデオロギーは労働者のイデオロギーではなく、粉砕すべきイデオロギーです。」、 「天皇を頂点とした日本の人民支配の構造を食い破ることは現下のXデー攻撃と戦いきることをぬきにしてはありません。」等と 自己の政治思想を記載したビラを病院内で配布した。 また、同年二月二十三日、本件病院が大喪の礼により国民の休日となった翌二十四日に休診としたことについて、 ネットワーク八号に「戦犯ヒロヒトの国家葬に反対します。」と題して、 自己の政治思想を記載して,休診に反対し、また「休診になって一日休みがもうかった」 と奴隷根性をさらけだしている人がいます。」等と記載して、本件病院の同僚の姿勢を批判した。」 4 原判決六六頁五行目ないし六九頁一行目を次のとおり改める。 (7)本件病院では、有給休暇は前日までに届け出ることを要し、 休暇の当日以降に届出がされた場合(以下「当日届出」という。)には、欠勤扱いとされていた。 被控訴人白川は、平成元年一二月一八日にネットワーク九号を、平成二年一月二九日に同一一号を発行して、 有給休暇は労働者の権利であるから、当日届出でも無条件に有給休暇が取得することができるようにすべきである等と要求した武谷労組は、 同年三月一日、本件病院と, 指定した日の二日前までに届出をすることにより,年次有給休暇を取得できることや休暇日数を増加させること等を内容とする協定を締結し, その後間もなく、これを組合員に知らせるとともに、そのニュースで「年次有給休暇は労働者の権利であり、 いつでもとりたいときにとれるべきだというのは当然です。 しかし医療をおこなう職場の特殊性からケース・バイ・ケースで考えなければならないことも多いのも事実です。」 及び「早めにわかっているものは早めに提出し、お互いの協力で業務の支障を最小限にするよう努めながら、 着実に一歩一歩進んでいきたいと思います。」と記載した組合ニュースを発行し、本件労組の動きを暗 に批判した。 これに対し、被控訴人白川は、同年四月一四日、「当日有給休暇を認めよ!」との見出しのネットワーク一二号を発行し、また同年五月九日に「病院は当日有給を無条 件で認めよ!」との見出しのネットワーク一四号を作成配布し,武谷労組と本件病院との前記協定を批判した。 このように、武谷労組と本件労組は、有給休暇問題について対立し ていた。被控訴人清水は、当初から同白河と共に、ネットワークの編集に参加していたが, 同年四月一四日の右ネットワーク一二号以降その配布にも加わった。 本件病院は、同年五月二六日に武谷労組との間に、当日届出による休暇は、原則として欠勤とするが、 母親の介護を必要とする子供の病気等やむを得ない理由で欠勤を余儀なくされた場合には、 当該欠勤日より三日以内に欠勤理由に関するしかるべき証書等を提出すれば、当該欠勤を有給休暇とすることができる旨の協定を締結し、 以後、本件病院においてはこの取り扱いによることになった。 しかし、被控訴人らは、理由を記載せずに当日届出をし、有給休暇を認めよと迫ったりした。 (8)被控訴人白河は、平成元年一二月一八日に配布した右ネットワーク九号において、 「みにくい経営者の姿」との欄において、院長武谷について、「あろうことか仕事上の上でさえ必要な応答も人を介してしか私に出来なくなっています。 私のそばを通る時はなにやらブツブツと「悪態」をついているようですがなんのことかさっぱり判らずただ院長の恐怖心のあらわれとしかきこえてきません。」及び「院長はこの程度のことしか出来ないのです。」 等と記載し、経営者であるとともに医師である同院長を侮辱した。 これに対しては、同月ニ五日、本件病院内に、「院長先生が白川さんを嫌うのももっともです。 あれだけ何かにつけああ言えばこう言う、仕事の邪魔をされれば当然です。私も嫌いです。」 及び「白川さんのグループが金目当ての過激派だと噂されているからです。」などど記載し、 右ネットワークの記事や同被控訴人の活動を批判する内容の「ネットワークって何が言いたいの?」と題する発行者不明のビラが掲示された。 同被控訴人は平成二年一月一八日にネットワーク一〇号を作成配布して、これに反論した。」 5 原判決七〇頁一〇行目に「労使関係」とあるのを「経緯等」と改める。 6 同七一頁六行目の「ところで、」から同頁末行冒頭の「が相次いだ。あmた、」までを削除し、同行の「同原告」とあるのを「被控訴人ら」と改める。 7 同七五頁三行目にネットワークニ一号、同ニニ号を配布し」とあるのを「ネットワークニ一号、同ニニ号を本件病院内で配布し」と改める。 8 同八三頁五行目の後に、行を改め、次のとおり加える。 「(なお、被控訴人らの陳述書及び供述中には、平成二年八月初めころから数箇月にわたり、 深夜、自宅に無言電話が多数回あったなど右ビラの内容にそう記載ないし供述部分がある。 それが真実だとすると、無言電話が始まってからびら配布まで約四か月の期間があったことになるから、被控訴人らとしては、このような、無言電話が本件病院幹部からの嫌がら せだと思うのであれば、当然本件病院に抗議したり、不当労働問題として取り上げてしかるべきであるのに、右ビラ配布前に本件病院に抗議したり、これを問題視することはなか ったこと、このような多数回の無言電話について、警察署や労働基準監督署等に届け出たことはないこと、結構相談所への登録やゴルフ会員権及びワープロ講習会の申込み等の事 実については、裏付けとなる客観的な証拠があるばずであり、これらが提出されてしかるべきであるのに提出されていないこと等の点から、被控訴人らの前記記載部分及び供述部 分は措信できず、ほかに被控訴人ら主張のような嫌がらせがあったこと自体を認めるに足りる証拠はない。)」 9 同八四頁六行目に「同月八日」とあるのを「同年一ニ月八日と改め、同九ニ頁三行目末尾に続けて、「しかし、同月ニ四日に同内容の事項について交渉が再開され、その後同年七 月までの間に、七回の団体交渉がもたれた。」と加える。 10 同九四頁四行目の「この間、」から同五行目の「苦情があった。」までを「この間、患者等から、被控訴人らが着用する赤いリボンは、黒いマジックがにじみ、血が固まったよ うな感じがするので止めて欲しいという苦情があった。」と改める。 11 同九五頁四行目冒頭から同九七頁二行目末尾までを次のとおり改める。 「(13)総務部長武谷光(以下「総務部長武谷」という。)は、平成三年五月二日の団体交渉の際、次回の交渉期日を同年七日に連絡する旨述べていたが、同月一一日になっても連 絡しなかった。 そこで、被控訴人白川は、渡辺総務課副課長を通じ、期日を連絡するよう申し入れ、同部長は、同副課長を通じて、「慰今は多忙で予定が立たないので、二日後の一 三日に連絡する。」旨返事をさせた。 ところが、同被控訴人は憤慨し、同部長に抗議しようとして、本件病院内を探し回り、同部長が食堂にいるのを見つけ、同日午後二時三〇分こ ろ、食堂から出てきた同部長に対し、直ちに期日についての回答を求めた。 同部長は、「とにかく一三日には連絡するから。」と言って立ち去ろうとしたところ、被控訴人白川は、「待 ちなさいよ。ちゃんと説明しなさいよ。」と叫び、口論となった。 同部長は、職員や患者が見ているところで口論するのを避けるため、外に出て、焼却炉の前まできたが、後を追っ てきた同被控訴人が、「待ちなさいよ。そういうのは許されないんだから。」と言いながら、同部長の腕を掴み、同部長が腕をポケットに手をつっこんだままこれを振り払おうとした ため、ポケットの縫い目が約一〇センチメートルにわたり裂けた。 更に、同被控訴人は同部長の前に立ちはだかり、同部長がこれを左右に避けて歩こうとすると、その方向に動き、 急に同部長に体当たりした。そのため、急を突かれた同部長は転倒し、同被控訴人も転倒した。その際、同部長は右足首を捻挫し、「痛い。」というと、同被控訴人は、「あら、かわいそう。」といって同部長をからかった。 このため、同部長は、精神的に動揺し、着替えなどに手間取ったこともあって、予定されていた永年勤続者表彰式で挨拶ができなかった。 (同被控訴人は、同部長が「どけよ。」と言って一方的に押しのけてきたので、 自分が転倒したというが、もしそうなら、体格のより大きい同部長が転倒するはずはないが、現実は 同部長も転倒して右足首を捻挫していることからみて、右記述は信用できない。)」 12 原判決九七頁一一行目の「発言するに至った。」を「発言し、本件労組の委員長も、 総務部長武谷に対し、「あんたなんか経営者やめちまえ。」と発言した。」と改める。 13 同九八頁一〇行目冒頭から、同一一行目の「報告もしなかった。」までを、「同被控訴人は、自分の発言で貫井を傷つけたなら、貫井に謝ればよいことであるとし、上司である 検査科長星加智(以下「検査科長星加」という。)の呼出しにも応じず、やむなく同人が同被控訴人の所へ出かけて事情をきいたところ、同被控訴人は、「何も話すことはありません。 もう勤務時間外ですから。」などと言って回答を拒否した。医師の診断の結果、貫井の子供は弱視ではなかった。」と改め、同九九頁の三行目の次に、行を改め、「(同被控訴人は、「奥目でないですか。」と聞いたことはあるが、 貫井にショックを与えるようなことは言ってない旨供述する。 しかし、同人は、同被控訴人の発言後直ちに総婦長の星加和美(以下「総婦長星加」という。)に訴えており、しかも、同被控訴人との話合いを拒否していることから、同供述は信用できない。)」を加える。 14同一〇〇頁八行目の「受けられなかったため、」を「受けられなかったとして、」に改め、同一一行目の「ひとつとして、」の次に「経営コンサルタントの会社に依頼して、」を加える。 15同一〇一頁六行目の「配慮する旨」「配慮し、どうしてもうまくいかないときは、他の 方法も考える旨」と改める。 16 同一〇八頁四行目の「午前九時一五分ころ、」の次に「内科の患者が混んできたため、」 を加え、同一〇九頁一行目の「和美から抱布を取り替えるように指示されたが、」を、 「患者が途切れたので、総婦長星加から、今の内に抱布を取り替えるように指示されたが、」を、 「患者が途切れたので、総婦長星加から、今の内に抱布を取り替えるように指示されたが、」 と改め、同五行目の次に行を改め、「更に、同年八月三日。婦長古川から、内科の患者が混雑したため、内科に応援に行くように指示されたのに、 同被控訴人は、「すぐに、調査会社の調査員が来る。 何で私が行くのか。そんなことは指示されていない。」などと述べて、すぐ指示に従おうとしなかった。」を加える。 17 同一〇九頁一〇行目「質問されたので、」から同一一〇頁六行目末尾までを次のとおり改める。 「質問されたのに対し、「なぜそんな質問をするのか。」、「何の権限で質問するのか。」、「なぜ自分だけに質問するのか。」などと述べて答えようとしなかった。 被控訴人清水は、平成三年八月六日に前記のとおりそれまでは提出を拒んでいた調査用紙に必要事項を記載して、提出したところ、総婦長星加から翻意した理由を執拗に 聞かれたため、いわば売り言葉に買い言葉のような形で、「あなたに私の考えなど分かって頂かなくて結構です。」といって総婦長室を出た。」 18 同一一一頁八行目の「取り合わなかった。」の次に、「そして、同控訴人は、ミスはまま発生する物だし、患者が多いこと、視能訓練師の人員不足、高齢患者との意思疎通の難 しさから右過誤が発生した物で、むしろシステムの問題であるとし、「こんなことも含め追求することが必要である。」と主張し、自分の過誤の責任を他人に転嫁しようとした。」を加える。 19 同一一三頁三行目の「同年三月一八日に着用せよと命ぜられたが、」を「同年三月一八日以降、数回にわたり、着用せよと命ぜられたが、「他に着けてない人もいる。」、何の為につけるのか。」などと述べて、」と改める。 20 同一一三頁七行目の「原告らは、」の次に「今度は、名札に職位は不要であるとして、」を加え、同一一四頁四行目の「名札に職位はいらない」を「患者のためには名札を付けるべきであるが、職位は不要である。」と改める。 21 同一一九頁七行目の「しかしながら、」から一二三頁一〇行目までを次のように改める。「本件病院は本件労組との団体交渉の過程で、被控訴人らが、「診断書の病名は精神 分裂病ではなく、うつ病であった。本人の名前はプライバシーに関することだから言えない。」などと述べて、同記載は真実であると主張したので、その有無をはっきりさせるため職務命令を出した物であり、被控訴人らは右命令に違反した。 ウ 以上によれば被控訴人らの行為は、就業規則四〇条一号及び二号に違反し、二六条二号及び三号に該当する。 (2)被控訴人白川及び同士水の解雇理由2 前記認定のとおり、平成二年12月1日にきよせ駅前で不特定多数の人に配布したビラには、 「病院は八月1日から総務部を新設し、部長に院長に息子である武谷光氏が就任しました。」と記載し、これに続けて「その直後の八月はじめから、組合員(既婚女 性)の自宅に深夜、明け方を中心に無言電話がかかり始めました。 また組合員の名前和歌たってけっこんそうっ男女に再婚希望の登録がされたり、ゴルフ会員権やワープロ講習会の申し込みがされたりしていることが明らかになりました。」と記載し、 さらにこれらの嫌がらせ行為について「病院が全く無関係であることなど到底考えることは出来ません。」 旨が記載されており、このようなビラの配布行為は、清瀬駅を通行する不特定多数の人々に対し、 本件病院が本件労組の組合員に対し無言電話、結婚相談所への登録及びゴルフ会員権等の申し込み等の嫌がらせ行為を行なったかのように知らしめ る物であり、本件病院の名誉、信用を毀損するものである。 そして、これらの無言電話等があったとは認められないことは前記のとおりである。 被控訴人らの右行為は、就業規則四〇条一号に違反し、二六条三号に該当する。 (3)被控訴人白川及び同清水の解雇理由3 ネットワーク25号の記載には事実に反する部分がある。すなわち、総婦長星かは、 本件ストライキの様子を見ていたところ、患者にひとりから不用であるとして差し出されたビラを受け取ったにすぎないものであり、 このような行為の外形上からもこれを「回収」などと判断できる余地のない物であって、 これを「星加婦長の患者さんからのビラ回収」と表現したうえ「婦長という権力を患者にまで示した」等と記載したことは、 意図的に虚偽事実を記載したものといわざるを得ず、 このような虚偽事実を記載したビラを病院前路上において患者豆腐特定多数の物に配布したことにより、本件病院の名誉、 信用を毀損するとともに、総婦長である星加和美に対する本件病院の職員の信頼感を損ね職場秩序を乱したことは明らかである。 右被控訴人らの行為は、就業規則四〇号一号に違反し二六条三号に該当する。」 22 原判決一二四頁一〇行目の「違反する。」を「違反し、二六条三号に該当する。」と改める。 23 同一二七頁四行目の「違反する。」を「違反し、二六条二号に該当する。」と改める。 24 同一二七頁五行目から一二九頁六行目末尾までを次のとおり改める。 (7)被控訴人白川の解雇理由7、同清水の解雇理由6 被控訴人らは、本件病院内で固まった血液を連想させる赤色リボンを着用し、さらに、 被控訴人白川は赤色の腕章を着用し、武谷労組の組合員もワッペンや黄色いリボンを 着用していた。本件病院が被控訴妊らに対し個別的に着用中止命令を発し、武谷労組の 組合員に対しては個別的には同命令を発しなかったが、被控訴人らのリボンは病院と いう環境の中で、嫌悪感を与えるようなものであったのに対し武谷労組のワッペン及 びリボンはさほど目立たない物であったから、このような本件病院の取り扱いの差は やむを得ないと言うべきである。 右控訴人らの行為は、就業規則四〇条一号ないし三号に違反し、二六条二号及び三号に該当する。 (8)被控訴人白川の解雇理由8 被控訴人白川は総務部長武谷に付きまとい、腕を掴むなどした結果、同人のズボンの ポケットが破れ、また同人に体当たりして、同人を転倒させ、右足首を捻挫させた。 どう被控訴人の右行為は就業規則四〇条一号に違反し、二六条三号に該当する。」 25 原判決一三〇頁八行目及び一三一頁一一行目の「違反する。」をそれぞれ「違反し、二 六条二号及び三号に該当する。」と改める。 26 同一三二頁一〇行目冒頭から一三三頁六行目末尾までを「イ 被控訴人白川の右行為 は、就業規則四〇条二号に違反し、二六条一号及び二号に該当する。」と改める。 27 同一二七頁八行目冒頭から一三五頁一一行目末尾までを次のとおり改める。 「イ 同被控訴人の右行為は就業規則四〇条二号に違反し、二六条二号に該当する。 ウ 被控訴人らは、新しい名札が配布された歳、本件労組として着用するかどうかを考 慮中であるなどと言って、これを直ちに着用しなかったが、その期間は被控訴人らの 休日を除き二日間である。 しかしながら、医療期間において、職員が名札を着用する必要性のあることは言うまで もなく、就業規則四〇条五号にも明記されているところであり、被控訴人らの着用拒否 に正当な事由があるものとは認められない。 しかも、被控訴人白川は、従前から再三の 指示にかかわらず、名札の着用を拒否してきたのである。 右控訴人らの行為は、就業規則四〇条二号及び五号に違反し、二六条二号に該当する。」 28 原判決一三六頁九行目冒頭から一四〇頁九行目末尾までを次のとおり改める。 「イ 同被控訴人の右行為は、就業規則四〇条二号に違反し、二六条二号に該当する。 (14)被控訴人清水の解雇理由9及び10 被控訴人清水は、平成三年七月一〇日から同月一三日までの総婦長星加の呼び出しに対し、「要件がはっきりしないから、いかない。」と述べて、これに応じなかった。上司が部下を呼び出すときに、具体的な要件を告げる必要はない。しかも右呼び出しは、同被控訴人の調査拒否あるいはビデオ撮影反対のビラの配布直後になされたのであるから、同被控訴人は、その用件を知らないはずはなく、用件がはっきりしない云々は、単に口実にすぎないと認められる。 また、同総婦長が同月二四日に、看護観等について質問した際、きちんと答えようと しないまま、退出した。 同被控訴人の右行為は、就業規則四〇条一号及び二号に違反し、二六条二号に該当する。 (15)被控訴人清水の解雇理由12 被控訴人清水は、それまで提出を拒んでいた調査用紙を提出したところ、総婦長星加から翻意した理由を聞かれたため、いわば売り言葉に買い言葉のような形で、「あな たに私の考えなど分かって頂かなくて結構です。」といって総婦長室を出た。同総婦長がこのような質問を発したこと自体は特に不合理とは言えず、同被控訴人の態度に問 題がなくもないが、右行為があえて、懲戒理由になるとまでは認めがたい。 (16)被控訴人清水の解雇理由13 被控訴人清水は総婦長星加や婦長古川の指示に従わず、あるいは反抗的な態度をとった。 右行為は就業規則四〇条二号に違反し、二六条二号に該当する。 (17)被控訴人らの追加解雇理由 控訴人の主張する追加解雇理由のうち、控訴人白川及び同清水につきいずれも2の理由は、無許可ビラ配布行為に関するものであるところ、ビラ配布 を繰り返している事実は既に解雇理由においてしめされているところであり、また本件において本件病院による許可のないことは被控訴人らも争っていない ところであるから、本件においては追加主義にかかる無許可ビラ配布の事実は、本来の解雇理由と密接な関係にあるということができ、また追加主張を許して も、不意打ちになるものではなく被控訴人らに防禦上の不利益を与えることもないから、許されるものである。 そして、本件病院は、被控訴人白川に対し昭和六三年六月ころビラ配布について事前承認を受けるよう注意した事実はあるものの、 その後においても、同控訴人、武谷労組及び他の者の配布ないし掲示について黙認していたのであるから、これをもって無許可ビラ配布行為が就業規則に反するということはできない。 しかしながら、本件病院の従業員グループが互いに相手方を非難する文書を配布し始め、いわば泥仕合ともいうべき状態になり、このため本件病院が従業員のモラル低下をおそれて無許可配布ないし掲示を禁止する通達を出した平成二年一〇月二日以降においては、本件病院内でビラの無許可配布行為は就業規則一条及び四〇条二号に違反し、二六条二号に該当するというべきである。 したがって、平成二年一〇月三一日から同年一一月二日にかけての被控訴人らのネットワーク二一号、同二二号、同月三〇日の同二六号、 同年十二月五日の同二七号、同月八日の同二八号、同月一五日の同二九号、平成二年一二月二九日の同三〇号、平成三年五月二四日の同三四号、 同年七月八日の同三八号の各配布行為並びに平成二年一一月二七日の被控訴人白川のネットワーク速報の配布行為は、 就業規則一条及び四〇条二号に違反し、二六条二号に該当する。 控訴人のその余の追加解雇理由の主張は失当である。 (二)結局、被控訴人らには、右に認定したとおりの解雇理由がある。 三 解雇権の濫用及び不当労働行為について 1 被控訴人らの行為について (一)被控訴人白川は、その本来の職務である視能訓練士の業務において、患者とその母親の面前で「この子、弱視じゃない。」等とその心情を傷つける発言をしたり、カルテを別人のものと取り違える等の重大な過誤を行なっているものであって、しかも、これについて反省の態度がみられない。 (二)被控訴人白川は、全関東の組合員十数名と共に、院長武谷に面会を強要したり、診察室において患者を診察中の同院長に対し、村中祐子の職場復帰を要求して、大声で詰め寄ったり、多数の患者の面前で総婦長星加の白衣を後ろからつかんで大声で迫ったり、総務部長武谷に対し、暴力を振るった。 また、同被控訴人は、村中祐子が任意に退職をしたのを知りながら、本件病院が解雇を強行したなどというビラを作成し、また大喪の礼による国民の休日に本件病院が休診にしたことに対して、病院の労働条件とは無関係な政治思想を述べて反対し、休診に賛同の同僚に対し侮辱的言辞を吐くなど、極めて特異な行動に走っていたものであり、このため本件病院の従業員の中には、同被控訴人の行為に恐怖心を抱く者すら生じた。 本件病院は、従業員間のいわば泥仕合ともいうべき事態に直面して改めて病院内でのビラの無許可配布を禁じ、武谷労組やその他の者は無許可配布等を止めたのにもかかわらず、被控訴人らはその後もこれを全く無視し、無許可配布行為を続けているものであり、多人数の武谷労組が有給休暇問題及び病院内ビラ配布問題等において現実的な対応をしているのに対し、本件労組は「労使協調は地獄の道」を標榜して本件病院に対して攻撃的な態度をとっている。 また、被控訴人らは、正当な職務命令に応じず、上司に対し、反抗的な態度をとり、本件病院の円滑な業務の執行を妨げ、秩序を乱した。 (三)病院は、患者に対し診療行為を行なうことにより経営されるものであり、診療行為は、健康を害した人々等の身体を対象とし、時には生命をも左右するものであるから、このような診療行為を行う病院にとって、患者による医師、看護婦その他の従業員、さらには病院そのものに対する名誉、信用等の社会的評価が極めて重要であるといわなければならない。 非控訴人らの配布したネットワーク等のビラは、被控訴人らが編集しているものであるが前記の通り、その中には真実に反することを記載したもの、不穏当かつ下品な内容のあるものがあり、これにより本件病院の名誉、信用を著しく毀損した。 2 これらの諸事情を考慮すると、本件病院が被酵素人らを懲戒解雇したことは社会通念上相当なものとして是認することができ、その行為に鑑み、解雇が重すぎて、不合理であるとは到底いえない。 3 前期認定の通り、本件病院は、総務部長武谷が平成三年四月一五日の本件労組との交渉を一方的に打ち切ったり、 非控訴人らのリボンなどの着用について、同種行為を行っている武谷労組については個別に警告ないし命令をしなかったにもかかわらず、本件労組については被控訴人らに対しリボン着用中止の個別命令ないし警告を発する等、本件労組と武谷労組との間で取扱いに差をつける等の経緯があったことが認められる。 右平成三年四月一五日の発言及び交渉打切りは、妥当な行為とは言えないものの、 従来、本件労組の交渉員も大声を出したり、一斉に喚き侮辱的言辞を弄することがあったこと、交渉中断後の同月ニ四日には同内容の交渉が再開されており、その後同年七月までの間、六回にわたり団体交渉が行われていること、またリボン等着用の個別警告ないし命令を被控訴人らに対してだけ行ったのも、被控訴人らの着用する赤いリボンが固まった血液を連想するとの苦情がある等の事態が生じたためであり、着用するリボンの色や記載内容等において差異があったのであるから、本件病院の対応も異なってしかるべきであることから みて、右発言、交渉打切り、取扱いの差をもって直ちに本件労組への不当な差別発言意思の現れということはできず、前記被控訴人らの行動を鑑みると、本件解雇が本件労組を明滅させようとしてなされた不当なものであるということはできない。 四 以上のとおり、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものであり、これを一部容認した原判決は相当でないから原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人らの本訴請求及び附帯請求をいずれも棄却することとし、訴訟費世の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用し、主文のとおり判決とする。 東京高等裁判所第二民事部 裁判長裁判官谷澤忠弘 裁判官一宮和夫 裁判官小林登美子は、転補のため署名捺印できない。 裁判長裁判官谷澤忠弘 |